マニュアルアカデミー
組織の中では、異動などの配置転換・休職や退職といったタイミングで上司から後輩 、同僚間で業務の「引継ぎ」が行われています。
業務や作業を前任者から後任者に引き継ぐ場合、口頭だけでは不十分になりやすいため、引継ぎ用のマニュアルを作成するケースが一般的です。
本記事では、業務の引継ぎに重要な「引継ぎマニュアル」について、必要性や作成のメリットを紹介します。
メリットとデメリット、掲載項目と内容についても取り上げていますので、ぜひ参考にしてください。
目次
業務の引継ぎに必要な「引継ぎマニュアル」とは
なぜ業務の引継ぎマニュアルが必要なのか?
引継ぎマニュアルを作成するメリット
引継ぎマニュアル作成のデメリット
引継ぎマニュアルに載せる項目と内容
引継ぎマニュアルの作成・引継ぎの流れ
引継ぎマニュアル作成の大切なポイント
引継ぎマニュアルと一緒に渡すと喜ばれる情報
関係者への周知も忘れずに行う
工夫によって引継ぎマニュアルの質を高める
引継ぎマニュアルとは、引継書(ひきつぎしょ)とも呼ばれており、一つのマニュアルの中に具体的な作業手順や業務に関する現在までの状況がまとめられています。
システムの使い方であれば操作手順やプロジェクトの状況、着手できていない内容が書かれており、後任者が全体の流れを見渡して業務を引き継げるように情報が網羅されています。
引継ぎマニュアルは、業務マニュアルのように「手順」や「方法」を記載するだけではなく、今後着手すべき物事や懸念事項、未処理の項目が書かれています。
後任者が解決すべきポイントも含めて記載されているため、業務を滞らせることのないように生産性の維持を目的として作成しているのです。
引継ぎを口頭で行おうとしても、スケジュールの都合上難しい可能性があります。
前任者が異動や退職の準備で追われているような場合には時間がとれず、最低限の会話しか交わせない可能性があります。
マニュアルを作っておけば後から何度でも読み返せますし、業務に関わる人物や部署、業者の連絡先もマニュアルの中でチェックできるので、逐一前任者に確認をとる必要がありません。
後任者のために引継ぎマニュアルを作成するメリットは4つに分けられます。それぞれのメリットを詳しくみていきましょう。
マニュアルがなければ自力で解決するか、前任者に逐一尋ねなければならないため、非常に業務効率が悪くなってしまいます。
繁忙期や人員不足が発生している職場では、業務効率の低下はネガティブな結果に繋がる可能性もあるのです。
そこで、後任者が新しい業務を引き継ぐ際に引継ぎマニュアルが用意されていることで、滞りなく業務を進行させられます。
引継ぎマニュアルはリレーバトンのように、前任者から受け取って後任者が職務を遂行するためのものです。
十分に内容を精査し、必要事項をすべて網羅すれば、後任者は安心して前任者の代わりを勤められるでしょう。
属人化とは、「当事者でなければ対応できない状態」を指す言葉です。
どのような業務でも、限られた担当者に特定の業務を任せきりにすると、他の担当者が代わろうとしても方法がわからず滞るおそれがあり、これを属人化した状態と呼んでいます。
業務が「属人化」と呼ばれる現象に陥らないためにも、前任者が踏んできた手順や方法をそのまま引継げるマニュアルの存在が必要不可欠です。
業務マニュアルのみの引継ぎ、あるいは口頭での引継ぎといった方法では、重要な情報を伝えられない可能性があります。
マニュアル化することで抜け漏れを防止し、正確に業務の情報を伝えられます。後から重要な情報を追加したり、後任者自身が前任者に確認をとったりする手間も減らせるでしょう。
十分な情報がなく引き継ぎがなされると、後任者には大きな負担がかかります。
前任者と同じように業務を遂行できるのか不安になり、ストレスがかかるため業務効率の低下を招くおそれもあります。
引継ぎマニュアルは、後任者に必要な内容を漏れなく伝えることで、安心して業務に取り掛かれる効果があります。
引継ぎマニュアルを作成する際には、「マニュアル作成のコスト」「文書で伝える難しさ」という2つのデメリットに留意しましょう。
前任者がマニュアルを作成する場合、取り掛かっている業務とは別にマニュアルの作成にも工数をかけなくてはなりません。
作成に時間がかかるほど本業を圧迫するため、上司や上長・チームなどともよく相談し、引継ぎマニュアルの作成に時間をかけすぎないように注意しましょう。
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マニュアルは、文章や図解で必要な情報を伝えるための文書です。
実際の業務は文書だけで伝えきれない部分もあり、文章にしようとすると長くなりやすいものですが、資料の読み込みに時間がかかると業務効率の低下を招きます。
網羅的に情報を盛り込もうとして内容が膨大になると後任者の負担が大きくなり、スピーディに引継ぎが行えなくなるおそれもあるため、短く簡潔な文章と視認しやすい図や画像を使用しましょう。
ここからは、引継ぎマニュアルに掲載する項目を紹介します。円滑に業務を引き継いでもらうための必要項目をチェックしていきましょう。
「業務の概要」では、業務内容を端的に説明します。「業務の目的」では、なぜその業務を行うのか・最終的なゴール(到達目標)・社会的な意義などを詳しく説明します。
概要・目的のいずれも、後任者が引継ぐ業務をイメージするために重要なポイントのため、簡潔かつわかりやすい言葉で説明しましょう。
業務の概要や目的を説明したあとは、年間・月間・週間に分けてスケジュールを記載します。
年単位での大きなスケジュールを提示し、そこから月間・週間に落とし込んで業務のフローを理解させましょう。複数のタスクがある場合は、優先順位や順番も付けて説明してください。
次に、業務の流れと手順を説明します。すでに目的やスケジュールは記載しているので、具体的な流れ・手順を段階的に記載していきます。
具体的なフローがわかれば、後任者はマニュアルに従って業務を進められます。
流れと手順が段階的かつ網羅的に説明されていなければ、後任者がうまく業務を遂行できず全体が滞るおそれもあるため、抜けや漏れのないように確認しながら記載してください。
イレギュラーな業務(本来の流れや展開とは別に発生する業務)や、トラブルが起きた際のトラブルシューティングを記載しましょう。
この記述によって、後任者は「イレギュラーやトラブルの可能性がある」という心構えができ、対処法を実践できます。
業務の遂行に必要となる各種資料が確認できる場所を記載しましょう。
業務上知り得る情報でも秘匿性の高いものについては、鍵やパスワードのかかった場所に保管されるのが一般的です。
後任者は前任者から業務を託されている立場であり、いざというときに重要な情報にもアクセスできなければなりません。
まだ着手できていない未処理の業務、後から着手しなければならない懸念事項などを記載しましょう。
具体的には、終了できなかった業務の内容・スケジュール・締切日・納品期日・関係部署(担当者の氏名)・関係先に関する情報・議題や課題・打診があった案件などです。
業務がすべて滞りなく進行していれば記載の必要はありませんが、解決が必要な項目は必ず後任者に伝えてください。
業務に関わる社内の関連部署・連絡先の情報は、優先度の高い順番に記載します。
頻繁に関わる部署や担当者は文字や装飾で目立たせ、どのような案件で関わりをもっているのか注記しましょう。
連絡可能な日時・時間帯も忘れずに記載してください。
社外の取引先については、社名・部署・連絡先・担当者名・連絡可能な日時と時間帯を記載します。
マニュアルの本文(業務の流れ)で担当者の氏名を挙げている場合でも、会社名や部署がマニュアルの中ですぐに把握できるように、所属先や連絡先はすべて記載してください。
ここからは、引継ぎマニュアルの作成と実際の引継ぎの流れを確認していきましょう。
前任者・後任者のスケジュールをすり合わせて、引継ぎのスケジュールを決定します。
急ぎの業務や重要な業務を任されている場合は、引継ぎに十分な時間がとれないケースを考慮し、早めに引継ぎ日をセッティングしましょう。
関係部署や社外の取引先などに挨拶を行う場合は、事前に引継ぎの日をスケジューリングして伝えてください。
スケジュールが決まったら、引継ぎマニュアルにどのような内容を記載するか、業務の内容を棚卸しします。
内容だけではなく関係先の名称・連絡先・氏名や、業務に必要なツール・システムもすべて網羅的に棚卸しします。
すでに伝えたい内容が決まっていれば、箇条書きにして項目を列挙し、追加して伝えたい項目がないか洗い出しを行いましょう。
ただし、業務マニュアルがすでに存在していれば、その内容を引継ぎマニュアルにすべて転記する必要はありません。
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棚卸しした業務をさらに細かく分類していきます。手順を整理しながら、内容をシチュエーションや工程ごとに分類します。「年間業務」「月間業務」と、期間ごとに分ける方法もあります。
はじめのうちは大分類で分けていき、その後中分類・小分類と細分化していくときれいにまとまります。
一連の引継ぎ項目をどのような方法でマニュアル化するか、アウトプットの方法を選定しましょう。
紙面形式のマニュアルにすべきなのか、動画などのデータにするべきかは、業務内容や会社のルールによって異なります。
アウトプット方法が決まったらツールを選定し、内容を落とし込んでいきます。
マニュアルはページを振り、タイトルや見出しをわかりやすく設定していきます。文書の場合、文字や白黒の紙面ではわかりづらいため写真や画像を用意しましょう。
できあがったマニュアルは、同僚や上司にチェックしてもらい、抜け・漏れの確認を行ってください。
誤字や脱字は作成者自身で読み返して発見できますが、読みづらさや伝わりにくさは客観的な判断が必要になります。ダブルチェックという意味でも、第三者の確認が役に立ちます。
作成したマニュアルはデータとして保存しましょう。マニュアルの元データ(WordやPPT)と配布物(PDFや紙)を両方きちんと保管しておきます。
データ化をしておけば後から訂正や改訂ができるので、後任者がさらに別の担当者に引継ぎを行う際にも活用できます。
後任者とスケジューリングした日時に打ち合わせを行い、引継ぎを実施してください。
すでにマニュアルはダブルチェックによって完成しており、あとはマニュアルの内容を伝え、保管場所やデータ化したマニュアルの保存方法などを共有すれば、引継ぎが完了します。
引継ぎマニュアルは、前任者の目線だけではなく後任者の状況も考慮しながら、簡潔に作成する必要があります。
ここからは、マニュアル作成に重要な5つのポイントを確認していきましょう。
後任者がスムーズに引継ぎを実施できるかどうかは、経験値やリテラシーのレベルにもよります。
マニュアルを作成する前に、まずは後任者の業務レベルを確認しましょう。
大まかな業務の内容だけを記載するのではなく、作業の流れに番号を振って、段階的に説明します。
段階的に理解することで、後任者が業務を覚えやすく効率化にも繋がります。
マニュアル作成には、「MECE(ミーシー:Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)」が参考になります。
MECEは「互いに重複せず、全体的に漏れがない」という考え方で、必要な情報を網羅しながらも重複や漏れのないように注意するという意味です。
多くの指示や注意点を記載しようとすると、文章が膨大になり効率的に理解が進みません。
そこで、結論をはじめに書いてから視覚的にわかりやすい図・表・イラスト・画像を入れるようにしましょう。
他部署との連携が重要な業務では、フロー図を入れて業務の流れを視覚的に表現すると、ひと目で把握できます。
引継ぎマニュアルに加えて、後任者が業務の参考にできる以下の情報もぜひまとめておきましょう。
【業務のノウハウ】
業務に使用するノウハウやナレッジは、後任者のためにも共有するようにします。イレギュラーやトラブル発生時の対応、いざというときに頼れるものもノウハウとして記載しておきましょう。
【業務リスト】
前任者が担当していた業務は、リストアップしてから一覧表にまとめると視覚的に理解しやすくなります。
【フローチャート】
ワークフローチャートは業務の流れを図で示したものです。業務がどの段階にあるのかをチェックする際に役立つため、引継ぎマニュアルと併せて渡すと良いでしょう。
マニュアルを作成するだけではなく、社内・社外の関係者にもあらかじめ後任者の紹介を行いましょう。
引継ぎマニュアルは業務上重要な情報が含まれているため、適切な場所へ保管する必要があります。保管場所は事前に上司や上長へ伝えておき、引継ぎの際に後任者とも共有してください。
今回は、引継ぎマニュアルの作成目的、作成方法や記載したい項目について紹介しました。
マニュアルは業務の概要や流れを把握する際に役立てられるもので、引継ぎマニュアルの場合は関係先の情報や未処理の業務、懸念事項といった情報も含まれるため、内容を整理してまとめる必要があります。
加えて、業務に使用してきたノウハウやナレッジ、ツールは後任者の業務を助けるものです。口頭での説明も交えながら、マニュアルと一緒にツール類もバトンタッチし、スムーズに引継ぎを行いましょう。
フィンテックスでは、引継ぎマニュアルをはじめとしたマニュアル作成の相談を承っております。
「どのようなマニュアルを作ればよいのかがわからない」とお悩みのご担当者様は、お気軽にお問い合わせください。
つい読んでしまうマニュアル作成のリーディングカンパニー、株式会社フィンテックス
監修者
企画営業部 営業本部長 / 経営学修士(MBA)
<略歴>
フィンテックスにて、マニュアル作成に関する様々な顧客課題解決に従事。 金融系からエンターテインメント系まで様々な経験から幅広い業務知識を得て、「分かりやすいマニュアル」のあるべき姿を提示。500社以上のマニュアル作成に携わる。また、複数の大企業でマニュアル作成プロジェクトの外部マネージャーを兼務している。 趣味は茶道。